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問題:外国語が使えると、収入はどれくらい増えるでしょうか?

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前回の記事に続いてFreakonomicsから。
Is Learning a Foreign Language Worth It?というPodcastが配信されていて、おもしろく聞きました。「外国語学習は本当に意味(価値)があるか?」という問いに答える形で、外国語を学んでいる小学生や専門家のインタビューが流されます。

Podcast要旨

外国語を学ぶ小学生
Little Red School Houseという私立学校では、4歳から外国語学習が始まり、卒業まで続く。外国語を勉強すれば、将来どうなると思う?という質問に対して...
4年生A「大きな商談があって、相手が英語を話せないときに、ぼくが相手の言葉が話せれば、大儲けできる」
4年生B「大きくなったらパン屋さんになりたい。中国人とかフランス人が店に来たら、その人たちの言葉で話すの」
4年生C「例えばスペイン語を勉強すれば、20年後くらいにほかの国で大金持ちになれるかもしれない。みんながそうなれるわけじゃないけど」

脳への影響
「人は、母語を使っている時と外国語を使っている時とで、性格が変わります」と言うのはシカゴ大学のBoaz Keysar。

リスクついての実験
ゲームのルール:手持ちで1ドル紙幣が20枚あります。このお金を賭けてコイントスを20回します(1回1ドル)。裏が出れば負け。1ドル没収されます。表が出ればあなたの勝ち。自分の1ドルが返ってくる上に、さらに1.5ドルを手に入れられます。ただし、賭けに応じないという選択も可。英語でゲームをするグループとスペイン語でゲームをするグループ(ともに母語は英語)に分けて実験。

実験結果
スペイン語を使った学生グループの方が20%も多く賭けに応じた。
外国語を使っている時の方がよりリスクを取る傾向がある(ただし、そもそもこのゲームは、賭けに出た方が明らかにリターンが大きい)。

モラルについての実験
シチュエーション:バスの運転手が前方の5人の歩行者を轢き殺そうとしている。バスに乗っているあなたは、歩行者5人を救うために、バスの運転手を殺しますか?5人を救うために、1人を犠牲にしますか?
学生を英語グループとスペイン語グループ(ともに母語は英語)に分けて質問し、回答をまとめる。

結果
バス運転手を殺すと答えた人は、外国語を使ったグループの方が、母語を使ったグループより2倍多かった。

最初の実験から言えることは、外国語で考るときの方が自分の選択についてより深く考える傾向が出ること。
2番目の実験でわかるのは、外国語の方が感情への訴えが小さいことだ。例えば英語の「love」とフランス語の「amour」は、その意味するものは同じだが、英語を母語にする人にとってより多くを受け取ることができるのは明らかに「love」の方だ。

人は、考える・情報の処理をする・決断をするそれぞれの場面で、言語の影響を受けることは間違いなさそうだ。つまり、外国語の学習は脳に変化を与える。これが外国語学習をするメリットだ。実際、2ヶ国語を話せる人は記憶力がよく、ものごとを実行に移す能力も高い。また、外国語を習得することでアルツハイマー病の発症を遅らせることができるという報告もある。それに、より多くの人とコミュニケーションができるというのは、前述の4年生が言うとおりだ。

コストパフォーマンス
MITのAlbert Saizは、大卒社会人9000名を追跡調査し、外国語の習得が収入に与える影響を調べた。
残念ながら、外国語を習得しても、収入は平均2%しか増えない。年収が3万ドルの人であれば、600ドル増える程度の話だ*1
中学高校での外国語学習にかかる時間とコストは相当なものになる。費用対効果で考えると、外国語学習はまさに時間の無駄だ。外国語に掛かる時間を使って、もっと別の、もっと有用なものを学ぶという選択肢があってもいい。

ただし、これはあくまでも母語が英語のアメリカ人の話だ。母語が英語以外の国や地域では事情が異なる。
例えばトルコ・ロシア・イスラエルで英語を使える人の収入を調査したところ、それ以外の人に比べて実に10~20%も高いという結果が出た。
英語で開かれる世界は仕事だけではない。本や新聞を英語で読む・英語の映画を見る・英語を使って人と話すなど、英語によって広がる世界はとても広い。
英語が世界の共通語になった現在、アメリカで外国語学習の経済的リターンが低く、英語が外国語であるような国で英語習得の効果が高いという結果が出たのは当然だ。


雑記

高校時代、テストで点がとれるのは英語だけでした。だから、大学も英語で入試できるところを受け、たまたま受かった大学の英語学科に通いました。社会に出てからは、海外の取引先とやり取りをする仕事をしています。
あるとき、ドイツの取引先担当者との雑談中に、大学の専攻は何だったか、という話題になりました。ぼくが「英語です」と答えると、「はぁ?」という反応が返ってきました。別の国の人とも話しましたが、決まって「英語を専攻しておいて、なぜ今の仕事に就いたの?」という質問が来ます。会社で営業をやるのなら、経済学とかマーケティングを学ぶものではないの、と。

余計なお世話です。でも、ある意味ごもっとも。英語は別に英語学科で勉強しなくても身につけられます。実際、大学で英語学科に通ったから今のレベルになったかというと、それは疑問。別の学問を専攻したのに英語もバッチリできるという人も大勢知っています*2。まあ、今さら後悔なんかしてませんけどね。

ところで、Podcastを聴いていて、映画『ビフォア・サンライズ』の冒頭場面を思い出しました。ジュリー・デルピーイーサン・ホークに向かって「アメリカ人て、どうせ英語しかしゃべれないんでしょ」って言うところ。アメリカ人の無教養さを揶揄する描写だけど、外国語を話せなくても世界中で話が通じるっていうのは、やっぱりすごく大きなアドバンテージですね。

この記事で使った写真:Learn English and Your Career Will Take Off (CC BY-NC-SA 2.0)

*1:言語によってその程度が変わる。スペイン語習得者は最も小さく、1.5%だ。フランス語は2.7%、ドイツ語は4%

*2:専門分野に精通しつつ、英語もできる、というのがやっぱりカッコイイ